小久保よしあきボイストレーニングスタジオ

歌声で重要になる筋肉はなんですか?

3つの筋肉をご紹介します。この筋肉の使い方の良し悪しが、歌に直結してきます。

①甲状披裂筋

thyroarytenoid muscle(略してTA)
声帯筋、声帯そのものと言っていい筋肉です。
甲状披裂筋(TA)に力が入ると、声帯そのものが収縮します。つまり、声帯が短く硬くなります。

②輪状甲状筋

cricothyroid muscle(略してCT)
輪状軟骨と甲状軟骨の間にある筋肉です。
CTに力が入ると、声帯を間接的に引っ張ります。つまり、声帯が長く張りができます。

③外側輪状披裂筋

lateral cricoarytenoid muscle(略してLCA)
輪状軟骨と披裂軟骨の間にある筋肉です。
LCAに力が入ると、声門を閉じることができます。

①甲状披裂筋(TA)と②輪状甲状筋(CT)の関係

まず、①甲状披裂筋(TA)と②輪状甲状筋(CT)の重要な関係について説明します。

甲状披裂筋(TA)と輪状甲状筋(CT)は、声帯に対し拮抗(反対方向に作用)する関係にあります。声帯が短くなったり長くなったりすると音程が変わる、ようは歌が歌えるわけですが、うまく力加減を調節しないと、声帯が一定のテンション(硬さ、張り)を保てなくなり、安定した音を声帯で作ることができません。安定した音の状態は、ざっくり以下のような図でイメージすることができます。

TACT

低音域では甲状披裂筋(TA)メイン、高音域では輪状甲状筋(CT)メイン、間は徐々に入れ替わるようにして、声帯にかかるテンションは常に一定(図では100)、という状態です。

動画でも解説しています。実際の発声をご確認ください。

中高音が全く出せない人(ほとんどの人は自分を酷い音痴と感じています)は、この輪状甲状筋(CT)がほとんど働いていない可能性があります。原因としては、そもそも歌う機会がなかったことが一番に考えられます。話し声だけであれば、輪状甲状筋(CT)をあまり働かす必要がないからです。輪状甲状筋(CT)が働くようなトレーニングが必要でしょう。具体的には、輪状甲状筋(CT)を活性化させやすい発音、音程、メロディパターンがあるのでそれを活用し、活性化だけでなく早い段階でピッチコントロールにまで落とし込むボイストレーニングを実施します。

一方低音がスカスカになってしまう人(ほとんどの人は声が小さいと感じています)は、甲状披裂筋(TA)がほとんど働いていない可能性があります。これは女性に多く、同時に話し声の小ささに悩んでいるケースも多いです。この場合は甲状披裂筋(TA)が働くようにトレーニングする必要があり、甲状披裂筋(TA)を活性化させやすい発音、音程、メロディパターンを活用します。

発声はバランスが重要なので、中高音がちょっと苦手な人や、低音が少し弱くなりやすい人に関しても、多くの場合は甲状披裂筋(TA)や輪状甲状筋(CT)のアンバランスが原因となります。

③外側輪状披裂筋(LCA)の役割

続いて③外側輪状披裂筋(LCA)について説明します。

外側輪状披裂筋(LCA)に力が入ると、声門を閉じることができます。そこに肺から呼気が供給されることで、声帯が振動を起こし、声の原音が作られます。実は、発声全般において、甲状披裂筋(TA)や輪状甲状筋(CT)よりも重要な筋肉で、この筋肉で声門を閉鎖させないと声帯を振動させることが難しくなるので、そもそも声が出ません。ただ、それだけ重要なので、ほとんどの人は生理的にこの運動を起こすことができます。

しかし、歌になると、外側輪状披裂筋(LCA)の運動に課題がある人が多く見受けられます。声門閉鎖の過剰、もしくは声門閉鎖不足です。声門もほどよいバランスで、音域全体に渡り閉鎖を起こしたいので、甲状披裂筋(TA)と輪状甲状筋(CT)同様に適度なバランスをとる必要があるのです。この場合も、声門閉鎖の状態に合わせて、バランスを整えやすい発音、音程、メロディパターンを活用します。

ボイストレーニングで重要なこと

ボイストレーニングでは、甲状披裂筋(TA)と輪状甲状筋(CT)とのバランス、そして外側輪状披裂筋(LCA)のバランスを見ることがとても重要です。ボイストレーニングは体感的に筋トレのように感じる場合もありますが、実はバランスを整えるために行うのです。バランスが整えば、多くの場合は楽に感じます。今まで苦しくて歌えなかった曲が、楽に歌えるようになったりするのです。ちなみに、甲状披裂筋(TA)と輪状甲状筋(CT)のバランスの練習とは、言い換えるとミックスボイスの練習です。

以上が、歌声で重要となる筋肉についての解説でした。経験上、歌う人にとっては、この理解で十分だと思います。詳細が知りたい人や、これらの筋肉を発声練習でどう扱っていくのかは、ボイストレーナーに直接尋ねてみると良いかと思います。

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